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助産師さんに訊く!授乳のお悩み相談室vol.2「おっぱいトラブルとママの体調」編

2025.08.20

「母乳が足りている?」「ミルクとの併用はどうすれば?」といった、授乳量のお悩みから、乳腺炎や授乳時の乳首の痛みといったママの体調の問題まで。毎日の育児で、授乳に関するお悩みは次々に出てくるものです。
vol.1に続いてvol.2では、産後の授乳をめぐる体と心のケアについて、引き続き助産師の高須かおりさんにお話を伺いました。

教えてくれた人
助産師/高須 かおり さん

母乳相談や育児相談、ねんねや離乳食についての相談対応、産後ケアなどを、自宅へ出張するかたちで個別にサポート。個人向けのほか、自治体からの派遣で新生児訪問も行っている。産前から産後のママのあらゆる悩みの相談相手として、一人ひとりに寄り添うサポート活動を展開。「食べる(授乳)・眠る・遊ぶ」を中心に子どもの健康とママパパが安心できるサポートを大切に活動中。「乳幼児睡眠アドバイザー」や「離乳食アドバイザー」のほか、マタニティヨガやベビーマッサージ等のインストラクター資格も多数。
https://www.instagram.com/jyosanshi.an/

 

乳首の痛みや乳腺炎などのトラブルは?

ー授乳についてのお悩みは、赤ちゃんについてのことが多かったんですが、中にはママの体調や栄養についての質問もありました。

母乳は、ママの体そのものからつくられる栄養です。
おっぱいのもとは「血液」なので、ママ自身の体調や栄養状態が、母乳の出にも影響します。
特に出産後は、自分の体を回復させるためにも血液を使いながら、赤ちゃんに母乳をあげるという、ダブルのエネルギーが必要になります。
そのため、たとえば貧血があったり、食事がとれていなかったりすると、母乳が出にくくなることもあります。

だからこそ、おっぱいのためだけではなく、自分自身の回復と健康のためにも、体を整えておくことがとても大切です。
できるだけ栄養のあるものを食べて、水分を取り、しっかり休むこと。
それが、母乳育児をスムーズにすることにもつながります。
妊娠中から少しずつ「体づくり」を意識しておくことが、産後の自分を助けてくれる準備にもなります。

 

ー乳首が切れたり、乳腺炎になったりと、おっぱいのトラブルに悩む人も多いです。

授乳中に「おっぱいの先が痛い」「傷ができた」などのトラブルがある場合、赤ちゃんの吸わせ方に原因があることが多いです。
たとえば、赤ちゃんの位置や抱っこの角度、くわえ方など、ほんの少しのズレで痛みが出たり、傷になりやすくなったりします。

赤ちゃんに咥えさせるときは、浅くなりすぎず、とにかく深く。
赤ちゃんに大きなお口を開けてもらって、乳輪のところまで、しっかりと咥えさせましょう。

 

ー乳腺炎については、どうでしょう?

乳腺炎は、「授乳がうまくいっていないから」という理由だけでなく、実はさまざまな要因が考えられ、「これが原因」というのが断言できません。

たとえば、いつもより授乳の間隔が長くあいてしまったとき。
日中、お出かけをしてペースが乱れたり、夜にたっぷり寝てくれた日など、おっぱいが張っている状態が続くと、それがきっかけになることはあります。

ほかにも、赤ちゃんが遊び飲みをするようになったり、しっかり飲みきらずに終わってしまうような日が続くと、おっぱいが残りがちになって、張ってきてしまうこともあります。

また、ママが冷えや疲れを感じていたり、水分補給が足りてなかったり…という日常の小さな変化も、乳腺に影響する可能性があります。

あとは、授乳時の角度や抱き方もありますね。
赤ちゃんは下あごの力で吸うため、あごの向きによって吸う力がかかる位置が変わります。たとえば、横抱きで飲みにくそうなら脇抱きに変えてみると、別の場所からしっかり吸えるようになることもあります。

だからこそ、授乳の仕方だけでなく、日々の体調や生活環境の整え方も、実はとても大切なポイントになります。

 

ーちなみに、「脂っぽいものや甘いものを食べると乳腺炎になりやすい」というのは、本当ですか?

これはよく耳にする話だと思いますが、「特定の食べ物が乳腺炎の原因になる」という科学的な根拠はありません。
実際、近年の研究でも、食べ物と乳腺炎の直接的な因果関係は否定されています。
つまり「これを食べたから乳腺炎になる」ということはないです。

もちろん、体調や生活リズムが乱れていると、結果的におっぱいのトラブルにつながることもあります。
でもそれは特定の食べ物のせいというより、体全体のバランスの問題。食べるもの一つひとつを気にしすぎるよりも、休息や水分補給、まずはママが無理をしないことのほうがずっと大切です。

 

実は赤ちゃんが、ママの体調を察知している!?

ー乳腺炎の兆候はあるんでしょうか。

「なんだか張りやすい気がする」「ちょっと違和感があるかも」と感じたら、無理をせずに早めに休息をとること。
そして、とにかく赤ちゃんにおっぱいを何度も飲んでもらったり、必要に応じて助産師さんや医療機関に相談することも大切です。

でも実は、こうした違和感を、赤ちゃんが先に気づいていることもあります。
赤ちゃんは、おっぱいのプロ。毎日ママのおっぱいを飲んでいるのは赤ちゃんだけです。
だからこそ、「いつもとなんだか違う」といち早く察知する力が、不思議とあるんですよね。

 

ー赤ちゃんが、ですか!?

そうそう。
たとえば、飲んでいる途中で急に口を離したり、乳首を引っぱるような動きを見せたり、いつもと少し違う飲み方をしているように感じたら、それは小さなサインかもしれません。

そこから数日して、ママが「なんだか張ってきたかも」「ちょっと痛いかも」と気づくこともあれば、赤ちゃんが上手く調整して詰まらないように飲んでくれて、そのまま何事もなく済んでしまうこともあります(笑)。

だからこそ、赤ちゃんの飲み方や様子をじっくり観察することは、とても大切。
「いつもと違うかも?」という気づきが、ママの体調を守るヒントになるかもしれません。

 

妊娠中からできる、授乳期の準備

ー授乳中のママの体調を整えるために、それこそ妊娠中からできることはありますか。

母乳育児をスムーズにスタートするためには、「体のめぐり」、つまり循環をよくすることが大切です。
そのためにまず基本となるのは、「体を冷やさないこと」。冷えは血流を滞らせるので、おっぱいの出にも影響します。

もうひとつ大切なのは、肩や胸まわりをほぐしてあげること。
おっぱいの後ろには肩甲骨があり、またおっぱい自体は胸の筋肉の上にあります。
授乳や抱っこで前かがみの姿勢が続くと、胸の筋肉がギュッと縮こまり、血流が滞りやすくなってしまいます。
そんなときは、肩甲骨を動かすストレッチや、胸の前の筋肉をゆるめるマッサージが効果的です。これは妊娠中からできると思います。
左右どちらもやさしくほぐすことで、胸の筋肉全体がゆるみ、おっぱいにもいい影響が期待できます。

 

ーなるほど。妊娠中にも、授乳期にもできる対策ですね。

さらに、水分をしっかりとることも、とても大切です。
授乳中は「射乳反射」といって、赤ちゃんが吸い始めるとホルモンの作用によっておっぱいが出る仕組みがあります。
この射乳反射がスムーズに働くためには、体内の水分が十分に保たれていることが大切です。
そのため、授乳の前後や授乳中にも、こまめに水分補給をする習慣をつけておきましょう。

授乳中は、水筒をそばに置いておくのがおすすめです。
水筒をおかわりした時は「今日はこれだけ飲めたな」と水分補給量の目安にもなりますし、「水筒を見たら一口飲む」くらいの感覚で、気楽に続けられます。

もし貧血がある方は、母乳の出にも影響することがあります。
お食事での鉄分摂取が難しい場合でも、市販の「鉄分入りウエハース」や「鉄キャンディ」など、手軽に補えるおやつを活用するのもひとつの方法です。

「水分をとる」「少し体をほぐす」「鉄分を補う」。

この3つは、妊娠中から簡単に始められる母乳ケア。
無理のない範囲で、できることから取り入れてみてくださいね。

 

ーママの体を整えることは、とても大切ですね。それ以外に、妊娠期からできる準備や心構えはありますか。

vol.1でもお話ししましたが、まずは「授乳や育児をどうしていきたいか?」という、自分なりの方針を考え始めることがとても大切です。

その方針を軸にしながら、妊娠中から寝室の環境を整えたり、日中や夜間の授乳をシミュレーションしてみることをおすすめします。
「私はこういうふうに授乳できたらいいな」と、自分の希望や理想をあらかじめイメージしておくと、産後に迷いが少なくなるはずです。

赤ちゃんが生まれたら、毎日の授乳は思っている以上に頻繁です。
だからこそ「どこで、どんな姿勢で授乳するか」は、そのご家庭の暮らし方や環境に合わせて考えることがとても大切です。

たとえば、「夜は寝室で添い乳※をする」という方もいれば、
「夜でもリビングに出て、明かりのある場所で授乳する」という方もいます。
ただ、個人的には暗いところで授乳をした方が赤ちゃんの寝つきが良くなりますし、ママが少しでも横になれるような環境があると良いなとは思っています。

妊娠中に赤ちゃんがいる生活を考えるときに、どうしても「赤ちゃんにとってどっちがいいのかな」と考えてしまいますが、大切なのは「自分がどうしたいか」「どうすれば自分が少しでも楽にできるか?」という視点も大切です。
赤ちゃんが生まれてみないとわからないところもあると思いますが、生活リズムや寝る場所に合わせて、少しずつ自分に合ったスタイルを見つけていくことが大切です。

「正しいやり方」よりも、「心地よく続けるやり方」を。
ママの心と体に負担のない方法を、ぜひ見つけてみてください。

 

(※添い乳…赤ちゃんとママが横になった状態で授乳すること)


***

 

授乳についての悩みは、赤ちゃんのことはもちろん、ママ自身の体や気持ちにも深く関わるもの。どんなに小さな悩みでも、「気になるな」と思ったら、それはきっと何かのサインです。

育児の正解はひとつではありません。
「こうしなければ」というプレッシャーにとらわれず、「こうできたらいいな」という自分の気持ちを、どうか大切にして、赤ちゃんとの素敵な授乳時間を過ごしてくださいね。

 

ライター 後藤麻衣子

 

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助産師

高須 かおり

母乳相談や育児相談、ねんねや離乳食についての相談対応、産後ケアなどを、自宅へ出張するかたちで個別にサポート。個人向けのほか、自治体からの派遣で新生児訪問も行っている。産前から産後のママのあらゆる悩みの相談相手として、一人ひとりに寄り添うサポート活動を展開。「乳幼児睡眠アドバイザー」や「離乳食アドバイザー」のほか、マタニティヨガやベビーマッサージ等のインストラクター資格も多数。 https://www.instagram.com/jyosanshi.an/

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