「誰とも話さず一日が終わってしまった」「温かいごはんを座って食べる時間すらない」……。そんな孤独や疲れを抱えるママたちの、新しい居場所として注目を集めているのが、東京都港区芝浦に誕生したばかりの産後ケア施設「ベビーカレンダーひより芝浦with品川港助産師会(以降「ひより」)」です。
民間企業と行政がタッグを組むことで実現できる、新しい産後デイケアのかたちを模索している「ひより」。自身も3児の母で助産師、「ひより」代表の板谷佑子さんに、お話をお聞きしました。
2026.02.11
「誰とも話さず一日が終わってしまった」「温かいごはんを座って食べる時間すらない」……。そんな孤独や疲れを抱えるママたちの、新しい居場所として注目を集めているのが、東京都港区芝浦に誕生したばかりの産後ケア施設「ベビーカレンダーひより芝浦with品川港助産師会(以降「ひより」)」です。
民間企業と行政がタッグを組むことで実現できる、新しい産後デイケアのかたちを模索している「ひより」。自身も3児の母で助産師、「ひより」代表の板谷佑子さんに、お話をお聞きしました。
《教えてくれた人》
ー板谷さんが、助産師を目指したきっかけは?
私は子どもが3人いるんですが、第一子の出産を機に助産師という職業を知って、「これだ!」と思って目指し始めました。
子育て中でしたので、働きながら通える准看護師からスタートし、2年間は「午前は仕事、午後は学校」という生活を送りました。その後に2人目を出産。続いて正看護師の学校に2年通い、3人目を産んでから、さらに1年かけて助産師の資格を取りました。子育てと並行して、一歩ずつステップアップしてきた感じです。ですので、今のママたちの子育ての必死さも、仕事との両立の大変さも身に染みて感じています。
助産師は、お産を担う「病院での仕事」と、退院後の母子をケアする「地域の仕事」がありますが、私が元々興味があったのは「地域の仕事」です。
退院してお家に帰った瞬間から、待ったなしの24時間育児が始まります。赤ちゃんは日々成長し、ママの体も心も劇的に変化していく、本来ならそこを家族や地域で支えていくべきなのですが、お家に帰った途端に社会から孤立して、一人で悩み込んでしまうママは本当に多いんです。
病院とも自宅とも違う、地域の助産師と繋がれる場所がもっと身近にあれば、という思いが、この活動の原点になっています。

ー産後ケア施設「ひより」について、教えてください。
デイサービス型の産後ケア施設「ベビーカレンダーひより芝浦with品川港助産師会」は、2025年9月に東京都港区の芝浦・港南エリアにオープンしました。
ベビーカレンダーが手掛ける産後ケア施設は「ひより青山」に続いて2つ目になります。
ここは、港区の母子支援に精通した地域の助産師会「品川港助産師会」と連携し、日帰りの「産後デイケア」のほか、「外来乳房ケア」と、「訪問乳房ケア」、主に3つのケアを行っています。
産後ケアと聞くと、出産した産院でのサービスや、ホテルでの宿泊ケアをイメージする人もいるかもしれません。
以前は、産院の空き病床を使って、退院後に何日間かショートステイ(宿泊)するというのが主流でした。でも今は、病院以外の場所、つまり助産院や、「ひより」のような産後ケア専門の施設が少しずつ増えてきました。
これは2023年の秋頃から国が産後ケア事業を努力義務として推進し、法制度や予算が整ってきた影響も大きいです。施設や人、費用などの課題が少しずつ解消されつつあることで、病院以外の選択肢を選ぶ方がすごく増えている印象です。
ー利用する方々は、ひよりさんで一日をどのように過ごされているんですか。
利用時間は朝9時半から15時半までで、現在は1日に最大8組までのママと赤ちゃんをお迎えしています。
過ごし方のスケジュールは、昼食以外は一切決まっていません。
朝、お越しいただいた際に「今日はどう過ごしたいか」をまずヒアリングします。そこからは、本当に自由。「この時間は起きなきゃいけない」といった決まりも一切ないので、ご自身のペースで過ごしていただけます。
過ごし方は本当に人それぞれ。溜まった疲れを取るためにひたすら眠る方もいれば、ダイニングでお喋りを楽しむ方もいらっしゃいます。
中には、赤ちゃんを預けてパソコンを開き、個室でお仕事をされる方もいるんですよ。港区という土地柄もあるのかもしれませんが、集中して作業をしたいというニーズにも柔軟に対応しています。
一人ひとりが自分自身の時間を自由に取り戻せるよう、その日の気分に合わせた過ごし方をしていただくことを、何よりも大切にしています。

ー「ひより」を運営するうえで、特に大切にされていることは何ですか?
まずはママたちに、とにかく気軽に来ていただける場所でありたいと考えています。おむつや着替えなどをすべてこちらで用意し、母子手帳ひとつあれば手ぶらで駆け込めるような環境を整えています。
また、24時間いつでもウェブから予約できますので、空きさえあれば「夜中に翌日の予約をする」ということも可能です。
訪れるママさんはもちろん、ここで働くスタッフも、みんなが笑っていられる場所でありたい、というのが、一番大切にしていることです。
ベビーカレンダーのモットーに「赤ちゃんの笑顔でいっぱいに -A Sea of Smiling Babies-」という言葉がありますが、関わる人みんなが笑顔になれる、そんな施設を目指しています。
施設には助産師や保育士だけでなく、お食事を担当する栄養士もいます。
私たちは医療をバックグラウンドに持つ専門職ではありますが、ここではあえて、フランクに接することを心がけています。
受診のために病院へ出向き、恐る恐る専門家に質問をするような緊張感ではなく、ここを訪れるママたちが「帰ってきた!」と心がほどけるような、そんな安心感を感じていただきたくて。
ママたちが肩の力を抜いて、ホッと自分を取り戻せる場所でありたいと思っています。

ー数あるサービスのなかでも、食事もとてもこだわっていらっしゃると伺いました。
はい、アロマトリートメントやベビーマッサージなど、いろいろなケア項目があり、どれもこだわりを詰め込んでいますが、食事には特にこだわっています。
実はママたちは、周囲が思っている以上に「自分のごはんが満足に食べられていない」んですよ。
立ち食いでパパっと済ませていたり、あとは育児に集中するあまり、食べること自体を忘れてしまったり。私自身、施設を運営してみて初めて、「こんなにも、自分の食事を犠牲にしてしまっているのか……」と、その切実さを痛感しました。
以前、お出ししたお昼ごはんを見ただけで、ポロポロと泣き出してしまった方がいらっしゃったんです。
お話を聞いてみると、「あったかいご飯を、こうして座って食べられるなんて……」と、感極まっていたみたいで。
その姿を見て、食事は心から満足できるものを提供しなければ、と強く思いました。
身体に良くて美味しいものを食べていただきたいので、「ひより」では無添加や発酵調味料にこだわった食事を管理栄養士が手作りし、それをダイニングで提供しています。
ー個室ではなく、あえてダイニングで食卓を囲む形にされているのですね。
はい。もちろん個室でゆっくり食べたい方にはそうしていただいていますが、ダイニングで皆さんと一緒に召し上がっていただく環境も提供しています。
同じ時期に育児を頑張っている仲間同士、食卓を囲めば自然と会話が生まれます。
お食事の時間は一応1時間ほど取っているのですが、それでは全然終わらなくて(笑)、気づけば2時間くらいお喋りされていることも珍しくありません。
そこで連絡先を交換して新しい繋がりができたり、お友達になって「またね」と帰っていかれたり。
一人で抱え込みがちな孤独な育児を共有できる場になることも、この施設の大きな価値だと思っています。
ママたちが心もお腹も満たされて帰っていく姿を見るのが、私たちが一番嬉しい瞬間です。
ー確かに、交流が生まれることで、孤独感が和らぐだけでなく、育児そのものが少しポジティブに捉えられるようになりそうです。
直近では、塩麹作りなどのワークショップも行いました。
産後ケアというと、どうしても「心身がボロボロになって、辛くなったら行く場所」「静かに休むだけの場所」というイメージを持たれがちです。実際に、周囲からそう勧められて来た、という方もとても多いです。
もちろん、そういう時の駆け込み寺であることには変わりないのですが、私たちはその消極的なイメージを払拭し、社会との接点を楽しみながら、アクティブに過ごせる場所にしていきたいと考えています。
ここでぐっすり休みたい人もいれば、誰かと会話をしに来る人もいる。または、何かをすることでリフレッシュしたい人もいる。いろいろな選択肢があっていいと思うんです。
ママたちがそれぞれ、自分自身の楽しみを見つけられる場所として、もっと開かれた施設にしていきたいと思っています。

ー施設内には、自由にリラックスできるための設備もあると伺いました。
食事だけでなく、自由に食べられるちょっとしたおやつやお茶があったり、個室にも持ち込み自由なリラックスできるクッションもあります。また、子どもを預けてリラックスできるよう、独立した保育スペース(預かりルーム)があり、専門の保育士が赤ちゃんを見守るので、ママたちも安心してリラックスできると思います。
ーyamatoyaの「リビングコット」もお使いいただいていますが、いかがでしょうか。
とても重宝しています。
「ひより」を利用できる対象年齢が1才までなので、リビングコットの対象年齢(1才)と一緒で、ぴったりです!
非常にコンパクトで軽いので、うちみたいなビル内にある施設でも、狭い廊下やドアをスムーズに通れるのが本当にありがたいです。
リビングコットは、預かりルームに常時置いてあるのですが、個室へ移動することも多いです。その移動も、とても楽々。
個室も、そんなに広いわけではないので、ここに一般的なベビーベッドを置いてしまうと圧迫感があるんですが、リビングコットだと軽くてコンパクトなので可動もしやすいですよ。
実は、一台はベビースケール(体重計)を置いて活用しているんです。
柵があるおかげで、赤ちゃんがゴロンと動いても落ちる心配がなく、安全に管理ができています。
ー使っていただいたママや、赤ちゃんの反応はどうでしょうか。
大人のベッドの高さと、リビングコットの床板の高さが合っていることと、ベッドに座って寝ている赤ちゃんを持ち上げるときにちょうど腰に負担が少ない高さで、お世話のしやすさを感じていただいています。
「家ではなかなか寝ないのに、このベッドだとよく寝るんです」というママもいらっしゃいました。
ぴったり収まってスヤスヤ寝ている姿は本当にかわいいですし、私たちスタッフも管理がしやすくて、本当に良いご縁をいただいたと感謝しています。
ー都心の産後ケアは高価なイメージがありますが、こちらはとても利用しやすい価格なんですね。
都心には1泊何万円もするようなホテル型の産後ケア施設もありますが、それではどうしても一部の人しか使えません。
対して「ひより」は、港区という自治体と、民間企業であるベビーカレンダーが連携する新しいモデルを構築しました。
これにより行政の公費負担が可能になり、利用者は区から配布されるチケットを使用することで1日2000円程度で、助産師や保育士による専門的なケアや温かい食事を受けられるようになりました。
ーこうしたモデルが全国に広がっていけば、救われるママたちがもっと増えそうですね。
本当にそう思います。
今回の港区での事例を一つのビジネスモデルとして成功させ、「港区でこんな取り組みをしている」という実績を全国の自治体に広めていきたい。それが私たちの目標でもあります。
産後ケアは、決して「具合が悪くなった時」や「本当に辛くなって限界を迎えてから」行く場所ではありません。
「誰かと話したい」「ゆっくりご飯を食べたい」、むしろそんな理由なんて一つもなくても、もっと気軽に来ていい場所だと思います。
追い込まれる前に、いつでも気軽に立ち寄れる新しい居場所として、産後ケアがもっと当たり前の存在になってほしいと願っています。

***
産後ケアは、限界まで頑張った応急処置ではなく、日常を健やかに過ごすための居場所。
板谷さんの力強い言葉には、育児と仕事に奔走してきたからこその実感がこもっていました
おいしいごはんを囲み、誰かと笑い合う。そんな「ひより」のような場所が全国に広がり、誰もが安心感の中で育児を楽しめる未来が、すぐそこまで来ているような気がしました。
ママたちの「助けて」のハードルを下げてくれる「ひより」の存在が、とても心強いです。
素敵なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
今回ご紹介した施設
ライター 後藤麻衣子
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わたしたちは、子ども家具メーカー「yamatoya」です。
子ども家具をつくってきた歴史は、
子育て情報蓄積の歴史でもあります。
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