産後、些細なことでイライラしたり、パートナーに攻撃的になってしまったりする「ガルガル期」。
yamatoyaが実施したアンケートでも、「夫に厳しく当たってしまう」「わけもなく涙が止まらない」など、自分自身の変化に戸惑っている声が多く寄せられました。
前編となる今回は、看護師・保健師であり産後指導士の岩井未愛さんと一緒にアンケート結果を見ながら、ガルガル期の正体や、産後の身体に起きている「見えないダメージ」について話をお聞きします。
「私が悪いの?」と自分を責めてしまう前に、まずは身体の仕組みを正しく知ることから始めましょう。
岩井 未愛さん
看護師・保健師・一般社団法人体力メンテナンス協会認定 産後指導士
現役の看護師として働きながら、産後指導士としても活動中。自身の育休中、漠然とした不安を抱える中で児童館のバランスボールに出会い、身体の不調改善とともに心も前向きになる変化を体験する。その経験から資格を取得し、現在は「育児がもっと楽しくなる」知識や身体の使い方、夫婦のコミュニケーション術などを発信。「親としてだけでなく、”私”の人生も楽しむ!」をテーマに、ママたちがご機嫌な”私”でいられるためのヒントを届けている。これまでの講座実績は、名古屋市内児童館等講座、PTA講座、産後ケア講座、企業様向け健康セミナー等。一般社団法人体力メンテナンス協会認定バランスボールインストラクター。instagram: @mie.balanceball
産後の心が不安定になる、ママの心身の仕組み
ーそもそも、「ガルガル期」とはどういう状態なのでしょうか。
「ガルガル期」というのは通称ですが、産後に周囲の人、特に夫や両親、上のお子さんなどに対して攻撃的になったり、イライラしてしまったりする時期のことを指します。
これにはきちんとした理由があって、大きくは「睡眠不足」と「ホルモンバランスの急激な変化」が影響しています。
妊娠中に増え続けていた女性ホルモンが出産を機にガクンと下がることで情緒不安定になりやすいんですよね。
産後1〜2週間に起こる「マタニティブルー」もその一種です。
ー産前産後は、精神状態が不安定になりやすいんですね。
はい。
さらに知っておいてほしいのが、授乳中に出る「プロラクチン」というホルモンの存在です。
これは、おっぱいをあげるたびに出るホルモンなのですが、実は「敵対感情」を生むホルモンともいわれています。
野生動物のライオンなどが、子どもを守るために外敵に対して牙をむくのと同じで、本能的に「子どもを守らなきゃ!」という意識が強くなりすぎて、周囲を敵とみなして攻撃してしまうんです。
生物学的に、そうなってしまうということを、まずはママにもパパにも正しく知ってほしいです。
ーなんと。そんな「敵対感情を生むホルモン」が、それも授乳するたびに出ていたとは…。
そうなんです。
産後、ママがイライラしてしまうのは、決して性格が悪くなったわけではなく、赤ちゃんを守ろうとする「自然な身体の反応」なんです。
それを知っているだけでも、少しは安心できるのではないでしょうか。
ーアンケートにも、パートナーから「子どもを産んで変わったと言われた」などの声がありました。このホルモンの存在を知ると、イライラするのも無理はないですね。
そうなんです。
その事実を知らずに、「なんで私、こんなに怒りっぽくなっちゃったんだろう」と自分を責めてしまうママが本当に多いんですが、まずは「ホルモンのせいなんだ」「私のせいじゃない」と、割り切ることが大切です。
そして、ぜひパートナーにも「私がイライラしているのは、性格が変わったわけではなくて、ホルモンのせいなんだよ」と、事実を伝えてほしいですね。
ママだけでなく、パパにも知っておいてほしい。パパも理由さえわかれば「なるほど、今はそういう時期なんだな」と納得してくれると思います。
ー育児中のママパパはもちろん、これから出産を迎える方にも、ぜひ知っておいてほしい情報です。
そうですね。
育児中は、無意識のうちに常に気が張り詰めているような、強い緊張状態にあります。
特に「私がやらなきゃ」という責任感が強い人や、真面目な人ほど、こうした産後の急激な変化についていけなかったり、産後うつになりやすかったりする傾向があります。
だからこそ、「産後は心身に変化が起きるのが当たり前なんだ」ということを、あらかじめ理解しておくこと。
そして、赤ちゃんのことばかりに目を向けるのではなく、自分のことにももっと関心を持って、変化を感じ取ってほしい。
「なんだかいつもと違うな」「無理しているかもな」と、自分自身の違和感にも目を向けてあげることが、何よりも大切だと思います。
産後の身体は「交通事故」レベル。まずは自分を労って

ー産後の身体の状態についても、改めて教えてください。
産後のママは、どうしても赤ちゃんのお世話に意識を持って行かれてしまい、自分のことは後回しになってしまいがち。
でも、産後の身体は、本当にボロボロなんです。
「交通事故で全治半年の怪我を負った状態」と表現されることもあるくらいです。
ーよく聞きますよね。確かに悪露などは出ますが、見た目にはあまりわからないので、伝わりづらいイメージです…。
ある助産師さんの言葉で、印象に残っているんですが、「胎盤」って、見たことありますか?
あれ、直径20センチくらいあるんですが、出産でそれが剥がれ落ちるということは、お腹の中にそれと同じ大きさの「傷」があるということなんです。
外からはまったく見えませんが、身体の中には、大きな大きな傷があることを、まずはママが自覚してほしい。
パパや周りの家族の皆さんもそれを理解し、産後1ヶ月はとにかく安静にして、身体を休めてほしいです。ママは、休むことが何よりの仕事です。
ーそんなに大きな「見えない傷がある」と具体的にいわれてようやく、ハッとしました…!
そうなんです。
完璧主義な方ほど、「私は平気だから」「私がやらなきゃ」と、無理をしてしまいがちですが、ママにしかできない授乳以外は、周りにすべてを委ねて休んでほしいくらいの時期なんです。
環境によっては難しい人もいるとは思いますが、まずはそんな大変な状態だということを、ママもパパも覚えておいてほしいです。
ー「イライラする」「不安を感じる」などのほかにも、不調のサインなどはあるんでしょうか。
サインとしては、イライラだけでなく、自律神経の乱れからくる「寝ようと思っても寝れない」「頭がぼーっとする(=マミーブレイン)」「抑うつ気分」といった症状が出ることがあります。
特に、涙が止まらない状態が1ヶ月以上続く、子どもを可愛いと思えなくなる日が続く、気力が湧かないといった状態が続く、といった症状が「長く続く」場合は「産後うつ」の可能性もあります。
そういう時は遠慮せずに医療機関を受診したり、あとは行政の保健センターなどに保健師さんがいるので、そこにSOSを出してください。
とにかくどんどん周りを頼っていい、ということを伝えたいです。
特に第一子の育児は要注意。孤独を感じたら「外」へ出よう
ーアンケートでは、「第一子の育児が一番辛かった」という声も多くありました。
1人目の育児は、すべてが未知の体験ですからね。
「正解がない」中で、ネット検索魔になったり、他の子と比べたりして、不安になりがちです。
さらに、育児コミュニティにもなかなか入れず、日中は赤ちゃんと二人きりで過ごすという人も多い時期。
出産前とのギャップも大きく、社会から隔絶されたような「孤独感」を感じやすいのも特徴です。
これが2人目以降になると、ママ友ができたり、上の子の予定があってバタバタしているうちに外との接点が増えますが、1人目はどうしても孤立しがちです。
ー孤独を感じた時は、どうすればいいでしょうか。
勇気を出して、子育て支援センターや児童館などに行ってみることをおすすめします。
「まだ赤ちゃんが小さくて遊べないし…」「寝てばかりなのに支援センターに行っても何をすれば…」と、遠慮してしまう方もいますが、目的は「子どもを遊ばせること」でなくていいんです。
ーそうなんですね…!
そう。支援センターは、子どもと保護者のための施設。「ママが大人と喋ること」が一番の目標でいいんです。
誰かと話したり、悩みを共有する、あるいはただ外の空気を吸うだけでも、気分転換になります。
赤ちゃんの月齢が低くても、どんどん利用してほしいと思います。
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「イライラしてしまうのは、赤ちゃんを守るための本能」。
そう知るだけで、張り詰めていた心がふっと緩むのではないでしょうか。
まずは、目に見えない「身体の傷」を癒すことが最優先。自分を責めず、「今は休むのが仕事」と割り切って、心と体を労ってあげてください。
後編では、そんなデリケートな時期を夫婦でどう乗り越えるか、具体的なコミュニケーション術や解決策をお届けします。
ライター 後藤麻衣子