看護師であり、yamatoyaアンバサダーでもあるsenaさん。
小さなお子さんと暮らす日々の中で、「もしもの時にどうすればいいのか」という不安を感じたことがきっかけで「緊急対応マニュアル」を自作したところ、友人知人にも広がり、周囲にも配布することになったそうです。
「焦ってもいい。でも知っているだけでも、落ち着けるはず」と語るsenaさん。ご自身の看護師としての経験と、母としての実感が詰まった、家族の命を守るためのマニュアルづくりについて、そして緊急時にすぐに動けるよう、親として準備しておきたいことなど、お話をうかがいました。
「緊急対応マニュアル」を作ったきっかけ
ーさっそくですが、senaさんが「緊急対応マニュアル」をつくろうと思ったきっかけについて、教えてください。
看護師として9年ほど病院で勤務してきましたが、担当していたのは主に成人の患者さん。子どもを持ってから初めて、怪我や病気などの緊急時対応への不安は、漠然と感じていました。
きっかけとなったのは、息子がウイルス性胃腸炎で入院したこと。
ミルクを吐き戻した異変に最初に気づいたのは夫でしたが、「どうしていいかわからなかった」と、私を呼ぶしかできなくて。
その姿を見て、「もし私がいない時にまた同じことが起きたら」と考えるようになりました。
私でも夫でも、家族の誰でも迷わず動けるように、我が家専用の「緊急対応」をまとめたマニュアルを作ってみよう、と思ったのが始まりです。
ー20枚の紙に、緊急時の対応をまとめてあるんですね。
はい。
子どもの病気とおうちケアについて発信している「教えて!ドクター」というサイトがあり、アプリ版もあるのですが、とてもわかりやすくまとまっているので重宝しています。
緊急時の対応や、子どものいろいろな病気について紹介されていて、それらが無料でダウンロードできます。
教えて!ドクター冊子版2021年改訂版
ただ、情報自体はそうしたスマホアプリなどでも調べられますが、いざという時は検索している余裕がなかったり、焦ってどうしたらいいかわからなくなるので、すぐにパッと手に取れる、紙の形にしました。
夫にも共有しやすく、ふとした時に目を通してもらえるので、紙には紙の良さがあるなあ、と思っています。
内容は症状別に色分けをして、「#8000」「心肺蘇生」「窒息」「けいれん」「頭部打撲」「誤飲」「やけど」「咳・呼吸」「アレルギー」など、子どもに起こりやすいトラブルをまとめています。
我が家では、ラミネート加工をしてベビーワゴンの一番上に常設しています。
マニュアルだけじゃなく、我が子の情報についても記入しておけるシートもつくりました。
身長や体重などは変わっていくので、随時更新できるように、ラミネート加工の上からホワイトボードマーカーで書いたり消したりしています。
senaさん自作の緊急対応マニュアル
ーマニュアルには、具体的にはどのようなことが書かれていますか。
緊急対応マニュアルには、もしもの時の心肺蘇生法、窒息の対処法などを、1歳未満と1歳以上に分けてファイリングしてあります。
そのほかにも、けいれんが起きたときの対処法や、頭をぶつけた時の判断基準、誤飲・誤嚥や、やけどの応急処置などをページごとにまとめています。
また、夜間や休日の相談窓口である「#8000」も大きく記載し、伝える内容などもメモしてあります。

「誤嚥」は事前に対応を知ることが大切
ーsenaさんが「まずは、ここだけは知っておいてほしい」ということがあれば、教えてください。
赤ちゃんは何でも口に入れてしまうため、誤嚥や窒息はとても身近なリスクです。
呼吸が止まってしまうと、脳へ酸素が届けられず、酸素不足になることで後遺症が残ることもあります。だからこそ、救急車が到着するまでの応急処置を知っておくことが、とても大切です。
1歳未満の赤ちゃんには、背中をしっかり叩く「背部叩打法」を。
1歳以上の子どもには、お腹を突き上げる「腹部突き上げ法(ハイムリッヒ法)」を行います。
また、「泣いている=空気が通っている」というサインを知っておくことも大切です。
泣き声が出ているうちは、無理に口に指を入れず、落ち着いて見守りましょう。
ー誤嚥に気づいたら、「迷わず119番」でよいのでしょうか。
はい。
まずは、すぐに119番通報が鉄則です。
救急車を呼んでから応急処置を考えるのではなく、救急車を呼びながら応急処置を同時進行するのが理想です。
スマートフォンならスピーカー通話ができるので、電話口で消防の指示を受けながら、手を動かすことができます。
「詰まっているかも」「息が苦しそう」と思ったら、迷わず通報を。
同時進行で処置を行うことで、救急隊の到着までの時間を有効に使えます。
もしも救急車が向かっている間に誤嚥物がポロリと出て無事であれば、それを電話口で救急隊員に伝えればいいだけです。
手順を知っていれば、行動が早く、正確になります。
こうした知識があるだけで、いざという時の初動は大きく変わります。
私自身、看護師として働く中で、初めて現場に立った頃と今(9年目)とでは、急変時の動き方がまったく違うと感じています。
知識や記憶は、いざという時の自分と家族を助けてくれると思います。

ーそのほかの症状で、救急車を呼ぶか否かを迷ったときは?
熱ややけどなどで「救急車を呼ぶべきか迷う…」というときは、「#8000」に電話を。
#8000は、小児救急電話相談の全国共通ダイヤルで、夜間や休日でも看護師や医師が状況を聞きながら、受診の必要性や自宅での対応方法を教えてくれます。
私自身も、深夜に利用したことがありますが、落ち着いた声で話を聞いてもらい、必要な情報を整理してもらえたことで、不安な気持ちが和らぎ、安心したことを覚えています。
電話では「月齢」「症状」「これまでにした対応」「変化の有無」を伝えるのが基本です。
何を話せばいいかわからなくても、質問に冷静に答えていくだけで大丈夫です。
また、大人の体調不良やけがで判断に迷うときは、「#7119」(救急安心センター事業)も覚えておくと安心です。
家族みんなで情報を共有し、もしもに備える
ーもしもに備えて、こうしたマニュアルを準備する以外にも、普段からできることはありますか。
母子手帳・保険証・お薬手帳・医療証などをひとまとめにし、すぐ持ち出せるようにしておくのも大切です。
緊急時は、探す時間が一番のロスになります。私は、救急車を待つ間に必要なものを家族で分担して準備できるよう、マニュアルに持ち物リストも添えています。

誰でも、とっさのことに焦ってしまうと思います。
看護師である私でもそうです。特に緊急時は、完璧な対応なんてできませんし、そもそも完璧を目指す必要はありません。
でも、ただ「知っている」だけで、できることがきっとあると思います。
看護師経験と、今までの子育てで学んだのは、「完璧に対応できなくても、知っておくことで少しでも落ち着ける」ということ。
このマニュアルを、家族の誰か一人でも冷静に動けるようにするために役立ててもらえたらうれしいです。
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子育ての日々は、思いがけないことの連続です。
それでも、「知っておく」「準備しておく」だけで、焦り方も動き方も変わります。
緊急時に完璧な対応は難しくても、少しでも落ち着いて動くために。
我が子の、家族の「もしも」に備えて、ぜひご家族でも話し合ってみてくださいね。
【ダウンロードデータ①】senaさん自作のマニュアル(下記以外の16枚)
Senaさん制作緊急マニュアル_16P
【ダウンロードデータ②】「教えて!ドクター」で配布しているマニュアルより
教えてドクター緊急マニュアル_4P
上記2つをダウンロードすると、senaさんがご自宅で使っている緊急対応マニュアルと同じものになります。
監修:看護師/日本救急医学会認定ICLS修了 ベビーヨガ・マッサージインストラクター senaさん
ライター 後藤麻衣子