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magazineライターの「第三子、無痛分娩への道〈後編〉」

2023.07.12

「無痛分娩」。

日本でも少しずつ事例は増えているものの、まだまだ一般的とは言えない分娩方法です。
この記事では、yamatoya magazineで取材や記事作成を担当するコピーライターが、3人目の妊娠を機に無痛分娩に興味を持ち、実際に無痛分娩を体験した様子をレポートします。
妊娠期の前編、分娩時の後編の2つの記事でお届けします。

妊娠期、無痛分娩に決めるまでを綴った前編に続き、後編ではいよいよ無痛分娩で出産へ挑みます!

 

プロフィール
yamatoya magazineライター 後藤麻衣子

岐阜県岐阜市在住のコピーライター・編集者。LEGOマニアの長男(2016年生まれ)、砂場の砂を自宅に持ち帰るのが趣味の次男(2019年生まれ)、お兄ちゃんたちに可愛がられすぎる三男(2023年生まれ)の、賑やかな三兄弟の母。

 

***

 

いよいよ、計画無痛分娩で入院の日。

前編でも書いた通り、上の子たちの預け先を事前に確保しておきたいというのもあり、事前に入院日を決めておく「計画無痛分娩」にしました。

入院日の日程調整では、「これで我が子の誕生日が決まってしまうかも…!」と、内心ドキドキしながらでしたが、実際のところ「この日がいいな!」なんて呑気なことを言っていられるわけではありませんでした。
先生が「この週あたりにしましょう」と判断してくださった週の平日かつ、先生のスケジュールを加味して数日挙げてもらった中で、夫が立ち会いに駆けつけやすい日を調整していくと選択肢は1日しかなく、誕生日を選ぶ余地もなく、自然と決まりました。

入院当日は、7時にクリニックに到着。
抗原検査で陰性を確認してから、入院するお部屋に通してもらい、荷物を整えて分娩用の服に着替えました。

無痛分娩の方法は、もっとも一般的な「硬膜外麻酔分娩」。
硬膜外腔という場所に麻酔薬を投与し、細くて柔らかいカテーテルを腰から留置して、麻酔薬を硬膜外腔に届けるという方法で、陣痛の痛みを和らげます。

9時ころにはLDR(陣痛・分娩室)に入って、バルーンを入れ、ベッドに横になったまま陣痛促進剤を少しずつ入れながら、陣痛がついてくるのを待ちます。
ちなみに夫は立ち会い予定でしたが、まだ新型コロナウイルスが5類に移行する前だったので、「陣痛がついてきてから呼んで、抗原検査で陰性だったら産後2時間まで立ち会える」という条件付きの立ち会いでした。
陣痛促進剤を使ったとしても、その日は陣痛が乗ってこなくて翌日再トライするというケースも少なくないと聞いていたので、実際に促進剤により陣痛が始まって、本格的な陣痛になったら呼ぶ、という約束だったので、しばらくは一人で陣痛がついてくるのを待ちます。

9時頃に陣痛促進剤を開始し、少しずつ薬を増やしていきますね、と説明されました。
10時半頃から、お腹の張りが数分間隔で押し寄せてきて、過去の経験から「これ陣痛っぽいな」と思っていました。
助産師さんは、「今、どれくらい痛い?」としきりに聞いてきてくれて、麻酔を入れるタイミングを探ってくれているようでした(麻酔を早く開始すると陣痛が弱まってしまうことがあるようです)。

助産師さんに聞かれるたびに、「まだ軽い生理痛くらいです」「さっきよりは少し痛くなってきました」と答えていて、助産師さんも「どうしようかな〜」という表情。
11時すぎ頃、お腹の張りや生理痛の痛みだったのが、腰の鈍痛に少しずつ変わってきて、「悶える系の痛みに変わり始めてきたぞ…」という感じになってきました。
助産師さんから「陣痛のMAXの痛みが10として、今いくつくらい?」と聞かれ、「うーん、2くらいだと思います」というと「おっ!結構痛いやん!ちょっと診るね」とグリグリ内診してくれて、「子宮口はまだだけど、急に来そうな予感もするし、麻酔いこう!」と麻酔の準備を始めることに。
このタイミングで「旦那さん呼んでね」と言われて、夫に連絡しました。

正午、夫が到着。
同時に麻酔を入れていきます。
促進剤も増やして陣痛を促しつつも、麻酔のカテーテルを背中から入れていっているようでした。
ベッドに寝たまま横を向いているうちに、背中から何やら入れてくれているような感覚。
仰向けにはなれないので、右向き、左向き、と陣痛中はたまに向きを変えてね、と言われて麻酔が効いてくるのを待ちます。

その間にも、陣痛は3分間隔でやってきます。
麻酔を入れたばかりのときはまだ効いていないので、お腹の張りと腰あたりへの鈍痛を感じていましたが、だんだん麻酔が効いてくると、モニターの数値が陣痛時の値を示していても「あれ?痛くない」という感じ。
お腹の張りだけはしっかり感じられるので、陣痛の波が来ているのはわかるものの、痛くないという不思議な感覚です。

麻酔が効いているかを確かめるために、助産師さんが小さな保冷剤を持って、お腹の下のあたりや太ももの付け根、太もものお尻側など何ヶ所もペタッとつけて「冷たい?」と聞いてくれます。
最初は少し冷たかったのに、だんだん何も感じなくなってきて「全然冷たくないです」と答えると「いいね、麻酔効いてきてるね」と教えてくれました。

そこからは、陣痛中だというのが嘘のように、助産師さんと雑談をしたり、夫と三男の名前を考えたり、ゆったり優雅な陣痛タイム(笑)。

麻酔中で食事ができないため、運ばれてきた豪華なランチや美味しそうなおやつが全部夫の胃の中に入ったのは少々悔しかったですが(笑)、本当に全然痛みを感じずに出産までの4時間強を、無痛で過ごしました。

無痛分娩を経験した友達から「無痛でも痛いときは痛いよ」と聞いていたので覚悟はしていたのですが、このときの痛み指数は完全に「ゼロ」。張りだけがある状態でした。

こんなに痛みがないと、逆に心配なのは「うまくいきめるのか?」ということ。
長男・次男の出産時は、いきみを逃すのが大変だったくらい、とにかく「いきみたい感じ」というのが自然と押し寄せてくれたのですが、今回はそれがなさそう。
「こんなに痛みゼロで、上手にいきめるのかな?」と助産師さんに聞いてみると「経産婦さんだし、きっと大丈夫!」と。とは言え、過去の出産は必死すぎてコツなんてもう覚えてないし、どうなるんだろう?と思いを巡らせていました。

陣痛中、普通分娩のときとの違いは、仰向けになれないので左右の向きを変えながら横向きでいることと、助産師さんによる内診(子宮口がどれくらい開いてるかのチェック)が頻繁にあること。
助産師さん曰く「普通分娩の妊婦さんは、子宮口が開いてくると痛がり方が変わってくるけど、無痛分娩の場合はそれがわからないから。申し訳ないけど、こまめに見させてね」とのこと。
グリグリされるのはとても苦手な私ですが、それも無痛なので「どうぞどうぞ、お願いします」という気持ちで呑気に寝転がっていました。

麻酔中ということもあり、一人きりにされることはほぼなく、だいたい助産師さんがついていてくれるのもとても安心でした。
陣痛の波がきてもお腹に張りを感じつつ、モニターをぼーっと眺めているだけでしたが、あるとき、陣痛の波を測っているモニターの数値も大きく振り切ったとき、今まではなかったお尻の方にズーンとくる違和感があり、それを助産師さんに伝えました。

「お、それは子宮口が開いてきたのかも」と。
内診をすると「ナイス!さすが経産婦さん。子宮口一気に開いてきたよ!」と教えてくれました。

過去の普通分娩のときも、お産が進んでくるとお尻の方への痛みがかなり強くなり、夫や助産師さんにテニスボールで押さえてもらって和らげていた苦い記憶が。
あの痛みの感覚に似てるな、という印象でした。でも不思議なのが、痛いわけではなく、ズーンと重くなる感じと、少しの痛み(生理痛くらい)という感じ。
でも確かにお産が進んでいることは実感できました。

そこからは先生の内診が入ったり、助産師さんたちが赤ちゃんの受け入れ体制を作ったりと、LDRが少し慌ただしくなってきました。
でもお腹には痛みはなく、思いっきり張っている感じと、お尻の方にズーンと重い感じ。
もう少しで出産かな?とワクワクしていると「次の陣痛でいきんでいいからね〜」とGoがかかりました。

「え!もう!??やったー!」「もうすぐ赤ちゃんに会える!」という、ポジティブな気持ちでいっぱいです。痛くないって、素敵。
モニターを見ながら、お腹をさすりながら、次の陣痛を心待ちにします。

次の陣痛がきたところで「はい、大きく息吸って、せーの!」と、その合図に合わせていきみます。
助産師さんの声掛けに合わせて息を吸ったり吐いたり。
お尻の方へのズーンとした違和感が、いきみを助けてくれている感じで、その「いきみたい感じ」に任せていきんでみる、という感覚でした。
一回ではなかなか出てきてはくれないので、それを何度か続けていくと「いいね」「もう頭見えてきてますよ〜」と。

無痛分娩で一番驚いたのが、「産んでる」感じがわかること。
お腹の痛みがないと、赤ちゃんが少しずつ降りてきている感じとか、下の方でジタバタと手足を動かしている感じとかがわかるんです。
今までの胎動では蹴られなかったところを蹴られて、「わあ、下がってきてる!もうあと少しで出てくるんだあ」と実感しました。

陣痛の波に合わせて何回かいきんだら、子宮口をぐぐぐ!っと通っていく感覚。

「おめでとうございます〜!」という助産師さんの言葉のすぐあとに、元気な産声を聞かせてくれました。

7時に入院、9時に促進剤開始、正午に麻酔開始で、生まれたのは16:12でした。
最後、頭が引っかかってしまって、すんなりは出てきてくれなかったのですが、吸引を使うこともなく無事に出産できてよかったです。

そのあとは、カンガルーケアをしたり、授乳をさせてもらったりと、LDRで二時間ほど、親子3人の時間を過ごしました。
3人目ということもあり後陣痛はかなり重かったのですが、鎮痛剤に頼りながらなんとか乗り越えた感じでした。
無痛分娩で体力を使わなかったからなのか、その後筋肉痛に苦しむこともなく、産後の回復もかなり早く感じました。

 

「無痛分娩が怖い」という話はよく聞きます。私も最初はそうでした。
硬膜外腔に麻酔の管を入れるので、本当に稀にですがそこを傷つけてしまうことで副作用がおきたりと、麻酔によるリスクは確かにあります。絶対安全とは言えないので周囲が心配するのもわかります。
でもそれはきっと無痛分娩に限らず、すべての出産にはリスクがあり、命懸けであることは変わりません。

リスクに怯えて選択肢を狭めるのではなく、出産方法それぞれにリスクがあることをしっかり理解し、納得したうえで、周囲ではなく“妊婦さん本人が”ベストだと思える方法で出産することが、大事なんじゃないかと思いました。

私は、普通分娩・無痛分娩を両方経験してみて、「両方経験できてよかった」という思いはありますが、自分の身近な人が迷っていたら、初産から無痛分娩をすすめると思います。
痛みがかなり軽減できたことで、三男の出産をじっくりと楽しめたこと、「産んでる」感覚がとても強くて心に残るお産になったこと、陣痛中を夫と一緒に笑って過ごせたこと、そして産後の回復も早くて助かったことなど、無痛分娩のメリットはかなりあると思いました。

 

今回、最初で最後の無痛分娩を経験して感じたことは、「迷っている人がいたら、全力で無痛分娩をおすすめしたい」ということです。

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後藤麻衣子

岐阜県岐阜市在住のコピーライター・編集者。LEGOマニアの長男(2016年生まれ)、砂場の砂を自宅に持ち帰るのが趣味の次男(2019年生まれ)、お兄ちゃんたちに可愛がられすぎる三男(2023年生まれ)の、賑やかな三兄弟の母。